エグゼクティブ・サマリー
本書「自動的に夢がかなっていく ブレイン・プログラミング」は、成功は才能ではなく、脳の特定のメカニズムを意図的に活用することで達成されると論じている。その中核をなすのが「網様体賦活系(RAS)」と呼ばれる脳幹の神経ネットワークである。RASは、意識に上らせる情報をフィルタリングする役割を担っており、これを正しく「プログラミング」することで、目標達成に必要な情報や機会を自動的に引き寄せることが可能になる。
成功への道筋は以下の主要なステップで構成される:
- 目標の明確化: 達成したいことを具体的かつ明確に定義し、手書きでリスト化する。これはRASに指令を与える最も重要なプロセスである。
- RASのプログラミング: 作成した目標リストを常に読み返し、視覚化(ビジュアライゼーション)とアファメーション(自己暗示)を実践する。脳は現実と想像を区別できないため、これらの技術はRASに目標が現実であると信じ込ませ、達成への行動を促進する。
- 期限の設定: 夢に具体的な期限を設けることで、それは達成可能な「目標」へと変わる。期限は強力な動機付けとなり、RASに緊急事態を認識させ、エネルギーと集中力を引き出す。
- 障害の克服: 目標達成の過程で直面する他人の否定的な意見、内なる恐怖や不安、そして避けられない失敗や拒絶は、成功への踏み石として捉え直す必要がある。特に、拒絶は「何をすべきでないか」を教える貴重なフィードバックである。
- 自己責任と法則の活用: 自分の人生はすべて自己責任であると受け入れ、他責にしない姿勢が不可欠である。また、「平均の法則」や「80:20の法則」といった数字の原理を理解し、最も重要な20%の活動に集中することが成功を加速させる。
著者であるアラン&バーバラ・ピーズ夫妻は、1994年に事業の失敗から全てを失い、莫大な借金を抱えた自身の経験を基に、これらの原則を実践して以前を遥かに超える成功を収めた。本書で提示される方法は、単なる精神論ではなく、脳科学に裏打ちされ、著者自身の人生によってその有効性が証明された実践的なプログラムである。
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1. 中核概念:網様体賦活系(RAS)
本書の理論的支柱は、脳幹に存在する神経線維の束である**網様体賦活系(Reticular Activating System、以下RAS)**の機能に基づいている。RASは、人間の成功と目標達成において決定的な役割を果たす。
- 機能と役割:
- 情報フィルター: 脳に送られてくる膨大な情報(毎秒4億ビット以上)をふるいにかけ、その99.99%以上を消去する。意識に上らせる情報を選別するゲートキーパーの役割を担う。
- 生命維持と意欲の源: 睡眠と覚醒、呼吸、心拍といった生命活動を維持するだけでなく、行動意欲や性欲などもRASの働きによるものである。
- 注意のコントロール: 特定の物事に関心を持つと、それに関連する情報だけが意識に飛び込んでくるように働く。これはRASがその情報を重要だと判断し、大脳皮質へ伝達するためである。
- RASの驚異的な能力:
- GPSシステム: あなたが「行きたい場所」(目標)を明確に設定すると、RASはそこへ至る道筋や必要な情報を自動的に探し出し、注意を向けさせる。
- 検索エンジン: あなたが強く意識したことや信じていることに関連する情報を、周囲の雑音の中から的確にピックアップする。
- 現実と想像の非区別: RASは、あなたが頭の中で鮮明に想像したことと、現実に起きていることを区別できない。この特性を利用することで、目標達成のイメージを脳に刷り込み、現実化を促すことができる。
「頭のなかで考えたことを、心から信じられるなら、人はそれがどんなことでも達成できる。」 – ナポレオン・ヒル
ナポレオン・ヒルのこの言葉は、現代の脳科学によってRASの機能として証明された。目標を紙に書いたり、口に出したりすることが効果的なのは、それがRASに明確な指令を与える行為だからである。
2. 目標設定と計画の原則
RASを効果的に活用するための第一歩は、何を望むのかを自ら明確に定義することである。
望みを明確にする
多くの人が成功できない最大の理由は、「どうすれば目標を達成できるか」ばかり考え、「自分は本当のところ何をやりたいのか」をはっきりさせていないからである。
- 「何を」だけを考える: 最初のステップは、「どうやって」達成するかを考えず、純粋に「何を」したいのか、何が欲しいのかだけを考えることである。
- やりたいことリストの作成: 思いつく限りのやりたいこと、なりたい姿、手に入れたいものをリストアップする。このリストは誰にも見せる必要はない。
手書きのリストの力
目標リストは、手書きでなければならない。その理由は、手書きという身体的行動が思考を脳に深く刻み込み、RASへのプログラミング効果を最大化するためである。
- スパゲティの原理: 目標を紙に書かない状態は、壁に投げつけたスパゲティのように混沌として方向性が定まらない。紙に書くことで、思考が整理され、明確な一本の線となる。
- 継続的な読み返し: 目標リストを常に読み返すことで、その内容がRASに刷り込まれ、脳は自動的に目標達成に関連する情報を探し始める。
目標の分類と優先順位付け
リストアップした項目は、重要度と緊急性に応じて分類し、具体的な行動計画に落とし込む。
| リスト種別 | 内容 |
| Aリスト | 近いうちに達成可能で、現在最も重要だと考えられる目標。 |
| Bリスト | 重要だが、決断前にもう少し考える時間が必要な目標。 |
| Cリスト | 挑戦してみたいが、まだ意欲をかきたてられるほどではない目標。 |
「Aリスト」と「Bリスト」には、やりたい順番に番号を振り、人生の方向性を決める基準とする。
期限設定の重要性
夢を具体的な目標に変える最も強力な手段が「期限」を決めることである。
「期限を決めると、夢は目標になる」
- パワーの源: 期限が設定されると、RASはそれを「緊急事態」と認識し、達成のために必要な力とエネルギーを体に送り込む。休暇前に驚くほど仕事が片付くのはこの効果による。
- 銃の引き金: 期限は目標達成への行動を開始させる引き金の役割を果たす。意志の力や強力な動機がなくとも、人は期限に間に合わせようと自動的に突き進む。
3. RASをプログラミングする技術
明確化した目標を脳に深く浸透させ、その実現を自動化するための具体的なテクニックが「視覚化」と「アファメーション」である。
視覚化(ビジュアライゼーション)
視覚化とは、目を閉じて、目標を達成した未来の自分の姿を鮮明にイメージすることである。
- 効果の科学的根拠: RASと脳は、現実と想像を区別できない。そのため、目標達成を具体的にイメージすると、RASはそれが実際に起こっていると認識し、体はそれに応じた反応を示す。
- 実践方法: 自分がどんな行動を取り、どう感じ、望む結果を手に入れた姿を五感を使って具体的に想像する。研究によれば、事前に望む結果をイメージした学生は、しなかった学生より100%高い成果を達成した。
アファメーション(自己暗示)
アファメーションとは、目標や信念を肯定的な言葉で繰り返し自分に言い聞かせることである。
- 脳内配線の再構築: 視覚化と同様に、アファメーションによって繰り返された言葉はRASから脳に伝わり、脳内の神経経路の配線をつなぎ換える。これにより、自己イメージが再構築され、目標達成が容易になる。
- 歴史的偉人たちの実践例:
- チャーチル: 「我々は海岸でも戦うだろう」という演説でイギリス国民を鼓舞した。
- J・F・ケネディ: 「国が何をしてくれるかではなく、国のために何ができるかを考えよう」と呼びかけ、国民の意識変革を促した。
- モハメド・アリ: 「俺は誰よりも偉大だ」と宣言し続けることで、自らを世界最強の座に押し上げた。
4. 成功のための習慣と法則
目標達成には、それを支える行動様式と、世の中を支配する普遍的な法則の理解が不可欠である。
新しい習慣の形成
人の行動の90%以上は「習慣」によるものである。成功は、破滅的な悪癖を断ち切り、生産的な良い習慣を身につけることにかかっている。
- 成功者の習慣: 週に3日以上の運動、時間厳守、目標設定、健康的な生活習慣など。
- 悪癖の排除: ジャンクフード、運動不足、先延ばし、過度の飲酒や喫煙などは成功を遠ざける。
自己責任の受容
自分の人生で起きていること、現在の状況、経済状態、人間関係の良し悪しは、すべて自分の責任であると認識することが出発点となる。
- 鏡の前の人物: 自分の状況をもたらした人物を知りたければ、鏡を見ることである。例外的な状況を除き、それは自分自身である。
- 他責からの脱却: 政府、社会、家族、環境などのせいにするのをやめ、自分が自分の人生の主導権を握っていると決意することが、変化を生み出す。
数の法則と80:20の法則
人生におけるあらゆる事象は、数字の原理、法則、確率に支配されている。
- 平均の法則: 同じ条件で同じことを何度も繰り返せば、常に一定の結果(確率)を出せるという法則。成功とは、この確率を見つけ出し、必要な回数の試行をやり遂げるゲームである。
- 80:20の法則(パレートの法則):
- 原理: 結果の80%は、努力の20%から生まれる。
- 応用: 収益の大部分を生み出す20%の製品や活動、時間を費やすべき20%の重要な人間関係などを見極め、そこにリソースを集中投下する。多くの人は、結果をほとんど生まない80%の行動に時間を浪費している。
5. 心理的障害の克服
目標へ向かう道のりには、内面と外面からの障害が必ず立ちはだかる。これらを乗り越える心構えが成功を左右する。
他人の意見への対処
目標を公言すると、特に親しい友人や親戚から「待った」がかかることが多い。
- 反対の理由:
- 心配: 純粋にあなたの身を案じ、失敗や危険から守ろうとしている。
- 嫉妬: あなたが成功して自分たちの前から去ってしまうことへの恐れ。
- 引け目: あなたの挑戦が、行動しない自分自身の人生を想起させ、不快に感じる。
- 対処法: 誰に何と言われようと聞き入れないと決心すること。夢を追いかける勇気がない人々に、自分の夢を諦めさせられてはならない。
ストレス、恐怖、不安の管理
- ストレスへの対抗策「笑い」: 笑いは脳からエンドルフィンを放出し、「ナチュラルハイ」の状態を作り出す。エンドルフィンは天然の鎮痛剤であり、免疫機能を高め、ストレスホルモンを減少させる。わずか2分間笑うだけで、体に良い変化がもたらされる。
- 恐怖と不安の克服: これらは成功への最大の障害物である。人生が投げかけてくる困難(泥)を、井戸から這い上がるための踏み台として利用するロバの寓話のように、トラブルを踏み台にしてステップアップする思考が求められる。
拒絶と失敗への心構え
「勝者とは、決して失敗しない人ではない。決してあきらめない人だ。」
- 拒絶はフィードバック: 「拒絶される」とは、自分が何をすべきではないのかを教えてくれる貴重な情報源であり、正しい軌道に乗るためのヒントである。
- 歴史的実例:
- ウォルト・ディズニー: 「創造性に欠ける」と新聞社を解雇され、ディズニーランド建設までに300回以上融資を断られた。
- ビートルズ: レコード会社から「彼らの将来は見込めない」と契約を断られた。
- スティーブ・ジョブズ: 30歳で自ら設立したアップル社から解任された。
彼らは皆、拒絶を乗り越え、決してあきらめなかったことで歴史的な成功を収めた。
6. 著者の実体験:どん底からの再出発
本書で述べられている原則の最も強力な証明は、著者自身の経験である。
- 成功からの転落: 1994年、著者夫妻はテレビ番組やベストセラー『ボディ・ランゲージ』で大きな成功を収めていたが、自らの判断ミスにより、ほぼ一夜にして家、資産、現金、自尊心のすべてを失い、莫大な借金を背負った。
- 再出発の決意: 2年間の苦悩の末、夫妻は再出発を決意。友人が貸してくれた安物のテーブルで、これからどんな生活がしたいか、どんな成功を収めたいかを紙に手書きで書き出した。「どうすれば可能か」はわからなかったが、「何をしたいか」を決めることが最も重要だと知っていた。
- 原則の実践と大成功: この新しい目標リストに基づき、本書で解説されているRASの活用法、視覚化、アファメーションなどを実践。その結果、世界的ベストセラー『話を聞かない男、地図が読めない女』を生み出し、以前を遥かに凌ぐ成功を手に入れた。この経験が、本書の理論が現実世界で強力に機能することの証となっている。
