本書は、インターネット起業家の「けんすう(古川健介)」氏による、従来の「やりたいこと探し」とは一線を画すキャリア設計の指針をまとめたものである。多くのビジネス書が「行動しろ」と説く一方で、なぜ多くの人が動けないのかという根本的な問いに対し、自分自身を物語の「キャラクター」として再定義し、客観的に動かす「物語思考」という具体的なメソッドを提示している。
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エグゼクティブ・サマリー
現代社会において「やりたいこと」が見つからずに悩む人々が急増している。著者は、成功(ゴールの達成)と幸せ(今というプロセスの充実)を明確に区別し、人生を「自分という主人公がなりたい自分になるための成長物語」として捉えることを推奨している。
物語思考の核心は、**「内面を変えるのではなく、行動を変えることで自己認識(キャラ)を上書きする」**点にある。過去の積み重ねではなく、未来の「なりたい状態」を設定し、それに最適なキャラクターを演じることで、不安や心理的障壁を排除して行動を促す。このプロセスは、以下の5つのステップで構成される。
- 頭の枷を外す: 制限なく理想の未来を言語化する。
- キャラ設定: 理想の状態に到達するために最適な「キャラ」を設計する。
- キャラの稼働: 設定したキャラが取りそうな行動をリスト化し、実践する。
- 環境の構築: キャラが自然に振る舞える「周りの人間」と「場所」を整える。
- 物語の推進: 失敗をコンテンツとして楽しみながら、物語を転がし続ける。
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1. 「幸せ」と「成功」の再定義
著者は、多くの人が陥る「成功=幸せ」という誤解を解くことから始めている。
- 成功とは: 困難な目的の達成(例:金持ちになる、社長になる)。これは「ゴール」であり、達成した瞬間に終わる。
- 幸せとは: 今(プロセス)が充実している状態。喜びも苦労もひっくるめて「今が楽しい」と感じられること。
- プロセスの重要性: 日本人は伝統的に「道(茶道・武道)」のように過程を重んじる傾向があり、ゴールへの邁進よりも「キャラクターを演じきる」物語思考が文化的に適している。
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2. ステップ1:頭の枷を外し「なりたい状態」を描く
行動できない最大の原因は、無意識に自分にかけている「頭の枷(制限)」である。
未来が現在を決める
過去の積み重ねが今の自分を作るのではなく、「未来の状態」の設定が現在の行動を決定する。
- ダルビッシュ有氏の思考法: 「40歳で引退し、神様に1回だけ20歳の時に戻してもらった」と仮定して今を生きることで、努力の純度を上げる。
- 100個のリストアップ: 10年後になりたい状態を制限なしに100個書き出す。具体的な数値よりも「どうありたいか(Be)」を重視する。
枷の外し方
- ネガティブからの逆算: なりたい状態が浮かばない場合は「絶対に嫌な状態」を書き出し、その反対を考える。
- 解像度の向上: 「年収1億円」と言い放つだけでなく、実際にその収入を得ている人の生活や、必要なスキル(プログラミング、英語など)を具体的に調べ、現実味を持たせることでコンフォートゾーン(心地よい基準)を引き上げる。
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3. ステップ2・3:キャラクターの設計と稼働
「自分」という曖昧な存在ではなく、理想を叶えるための「キャラクター」を定義し、それを操作する。
キャラの定義
キャラクターは以下の4要素で構成される: キャラクター = 求めるもの + 動き + 障害 + 選択
- YAZAWAの視点: 矢沢永吉氏の「俺はいいけどYAZAWAがなんて言うかな」という言葉に象徴されるように、個人とキャラを切り離してプロデュースする。
- 自己シグナリング: 人間は自分の行動を見て、自分の性格を判断する。先にキャラになりきって行動(うわっつらの優しさ等)をすることで、後から内面(自己認識)がついてくる。
行動リストの作成
設定したキャラが「朝起きた時」「上司に怒られた時」「電車に乗っている時」にどう振る舞うかをシミュレーションし、実際にその通りに動く。
- 話し方の模倣: 尊敬する人の話し方やテンポを完コピすることで、自然とそのキャラとしての振る舞いが定着する。
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4. ステップ4:環境による強制力の活用
個人の意志力には限界があるため、キャラを維持しやすい環境(周りの人々)に身を置くことが不可欠である。
環境が性格を作る
- 立場の影響: 平社員がリーダーの立場になるとリーダーらしくなるように、周囲からの「扱われ方」が変われば行動と性格も変わる。
- 限界質量の理論: 周囲の50%以上が理想の行動をとっている環境に入れば、自然と自分もその行動をとるようになる。
サードドア(第3の扉)の活用
理想のコミュニティや人物に近づくための「裏道」を探す。
- 相手の「今」を応援する: 著名人の過去の成功作ではなく、現在進行中で苦労している新規プロジェクトの「一番のお客さん」になることで、認知と信頼を得る。
- クイックウィン: 新しい環境に入った際は、まず「誰もが喜ぶ小さな改善(挨拶、掃除など)」を確実に達成し、早期に信頼残高を築く。
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5. ステップ5:物語を転がす実践技術
計画を立てるだけでなく、実際に物語を停滞させずに進め続けるための技術が必要である。
判断と決断の区別
- 判断: データや基準に基づき、誰がやっても同じ結論になるもの。
- 決断: 正解がない、あるいはデータが不足している中で、自分の意志で決めること。迷っている時間は物語を「ダレさせている」状態であり、即座に決断して次のシーンへ移るべきである。
リスク管理と失敗の捉え方
- リスクは「管理」するもの: 挑戦を諦める理由にするのではなく、失敗した際の「解毒剤(再就職先、貯金など)」を用意しておくことで、博打ではない挑戦が可能になる。
- 失敗のコンテンツ化: 物語において失敗は深みを生むエピソードであり、SNS等では応援を呼ぶ強力なコンテンツとなる。「線」で人生を捉えれば、一時的な失敗は通過点に過ぎない。
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6. キャリアのVSOPモデル
年代に応じたキャリア戦略の目安として、以下のモデルが提示されている。
| 年代 | フェーズ | 具体的アクション |
| 20代 | V (Variety) | 多様性。とにかく色々なことを経験し、向き不向きを知る。 |
| 30代 | S (Specialty) | 専門性。一つの分野を深掘りし、スペシャリストとして戦う。 |
| 40代 | O (Originality) | 独自性。「あの人っぽい」と言われる独自のスタイルを確立する。 |
| 50代 | P (Personality) | 人間性。スキルだけでなく「あの人と仕事がしたい」と思われる人間力で勝負する。 |
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結論:人生という成長物語の完遂
「やりたいこと」探しに終止符を打つためには、未来の理想像から逆算して「キャラ」を作り、そのキャラを動かし続けることである。未来の予測が不可能な時代において、固定されたキャリアプランは無力だが、強固な「キャラ」を持っていれば、どのような変化が起きても物語として対応が可能になる。
人生とは、**「自分という主人公が、なりたい自分になるための成長物語」**であり、物語が転がり続けている限り、そのプロセスそのものが幸福の源泉となるのである。