皆さん、こんにちは。ニューヨークのホリコ・キャピタル・マネジメント、堀古英司です。

いつもはテレビの画面越しに、アメリカの景気動向や株式市場の分析をお伝えしていますが、今日は「マーケット」という枠を一度取り払い、一人の人間として、そして長年ウォール街という「資本主義の最前線」で戦い続けてきた実務家として、**「人生で一番大事なことは何か」**という問いに向き合ってみたいと思います。

3,500字という限られた、しかし深い考察には十分なこのスペースを借りて、私がたどり着いた結論を皆さんに共有します。


1. 人生とは「複利」を最大化するプロセスである

私が考える人生で最も大事なこと、それは**「複利(Compounding)の力を信じ、それを途切れさせないこと」**です。

多くの人は「複利」と聞くと、銀行の利息や株式投資の運用益を思い浮かべるでしょう。しかし、複利の本質は数学的な計算式だけではありません。それは、知識、経験、人間関係、そして自分自身の「信頼」に至るまで、あらゆるポジティブな要素に適用される宇宙の法則です。

アインシュタインが「人類最大の発見」と呼んだこの力は、時間の経過とともに加速度的に価値を増幅させます。しかし、この力を享受するためには、二つの絶対的な条件があります。

  • スタートを一日でも早く切ること
  • 途中でゼロにしない(市場から退場しない)こと

これは投資も人生も全く同じです。人生における「一番大事なこと」とは、この複利を積み上げるための**「土台の維持」**に他なりません。

2. 合理的な「楽観主義」という最強の戦略

私がマーケットを語る際、一貫して「強気派(ブル)」であることは皆さんもご存知かもしれません。これは単なる性格の問題ではなく、極めて合理的な計算に基づいた選択です。人生において複利を最大化するためには、この**「合理的な楽観主義」**を持つことが不可欠です。

人類の歴史を振り返ってください。幾多の戦争、大恐慌、パンデミック、そして天変地異がありました。そのたびに「世界は終わる」「経済は破綻する」と叫ぶ悲観主義者が現れました。しかし、事実はどうでしょうか。S&P500指数が示している通り、人類の創意工夫と進歩の意欲は、常にそれらの困難を乗り越え、右肩上がりの成長を続けてきました。

悲観主義は、短期的には「賢く」見えることがあります。しかし、悲観主義に基づいた行動は、複利のプロセスを止めてしまいます。

「今は時期が悪いから挑戦をやめよう」「将来が不安だから守りに徹しよう」

そうやってブレーキを踏んでいる間に、楽観的に一歩を踏み出した者との間には、数十年後、取り返しのつかないほどの差が開きます。

人生で一番大事なのは、「未来は今よりも良くなる」という前提に立ち、自分のリソース(時間・資金・情熱)を投資し続ける勇気なのです。

3. 「時間」という資産の配分(アセット・アロケーション)

投資において最も重要な意思決定は、どの銘柄を買うかではなく、資産をどう配分するか(アセット・アロケーション)です。人生においても、あなたの最大かつ唯一の非代替的な資産は「時間」です。

人生の成功とは、この「時間」という資本を、いかに高いリターンを生む対象に配分できるかで決まります。

無形資産への投資

株や不動産は暴落することがありますが、自分の中に蓄積された「知識」や「スキル」、そして「人徳」という無形資産は、誰にも奪われることがなく、インフレで目減りすることもありません。

特に50代、60代と年齢を重ねるほど、この無形資産がもたらす「配当」が人生の質を左右するようになります。

効率とレバレッジ

私は常に「効率」を重視します。努力を否定はしませんが、間違った方向に努力をしてもリターンは得られません。

「自分が働いてお金を稼ぐ」フェーズから、「仕組みや他者の力を借りて価値を創造する」フェーズへ、いかに早く移行できるか。自分の時間にレバレッジをかける視点を持つことが、人生を豊かにする鍵となります。

4. 信頼という名の「キャッシュフロー」

ウォール街で働いていると、巨万の富を築きながらも、誰からも信頼されず、孤独の中にいる人を少なからず見かけます。彼らは「数字上の資産」は持っていますが、人生の「キャッシュフロー」が止まってしまっています。

人生における本当のキャッシュフローとは、お金の流れだけではありません。「あなたが困った時に、どれだけの人が手を差し伸べてくれるか」という信頼の総量です。

信頼を築くには時間がかかりますが、崩れるのは一瞬です。これはまさに、積み上げるのに数十年かかるが、一回の不祥事でゼロになるファンドの運用実績と同じです。

私は、誠実であること(Integrity)を人生の運用方針の第一条に掲げています。目先の小さな利益のために信頼を損なうことは、長期的な複利成長を自ら放棄する、最も「割に合わない」投資行動だからです。

5. 健康という名の「証拠金」

忘れてはならないのが、自分自身の身体という「器」です。

どれだけ優れた運用能力を持ち、膨大な資産を築いたとしても、それを享受する心身が機能していなければ、投資で言うところの「強制ロスカット」と同じ状態になってしまいます。

健康は、人生というマーケットに参加し続けるための「維持証拠金」です。

これを割り込んでしまえば、どんなに良いチャンスが目の前に巡ってきても、勝負に参加することすらできません。毎日の適切な食事、運動、そして十分な睡眠は、将来に対する最も確実な「積立投資」なのです。

6. 故郷とルーツが教えてくれたこと

私は兵庫県の尼崎で生まれ、箕面で育ちました。日本の静かな環境で育った少年が、今、ニューヨークの喧騒の中で世界の経済を分析しています。この対極にあるような二つの世界を経験して思うのは、**「自分の軸を持つこと」**の大切さです。

ニューヨークは世界中から野心的な人々が集まる場所です。そこでは、油断すると他人の価値観や、市場の狂乱に飲み込まれてしまいます。

そんな時、私を支えてくれるのは、日本の美徳である「謙虚さ」や「着実さ」、そして幼少期に培った「何事も論理的に突き詰めて考える姿勢」です。

人生で一番大事なことの一つは、**「周りが何を言おうと、自分自身の価値基準(ベンチマーク)をしっかり持つこと」**です。他人の成功を羨む必要も、他人の失敗を嘲笑う必要もありません。昨日の自分より、今日の自分がどれだけ進歩したか。その一点に集中することです。


結論:あなたがあなたの人生の「ファンドマネージャー」である

最後にお伝えしたいのは、**「主体性」**についてです。

あなたの人生というファンドの責任者は、親でも、会社でも、政府でもなく、あなた自身です。

市場環境(社会情勢)を嘆いても何も始まりません。与えられた環境の中で、今あるカードをどう組み合わせ、どう運用して、最高の結果を導き出すか。その責任を引き受ける覚悟を決めた瞬間から、人生の真の成長が始まります。

人生で一番大事なこと。それは、

「合理的な楽観主義を持ち続け、信頼と健康という土台の上に、時間という資本を投下して、複利の魔法を信じて歩み続けること」。

ニューヨークの空の下で、私は毎日そう確信しながら、マーケットの数字の向こう側にある「人間の営み」を見つめています。

道中には必ず、大きな「調整局面(苦難)」があるでしょう。しかし、それは一時的なものです。パニックにならず、長期的な視点を忘れず、淡々と自分のベストを尽くしてください。

皆さんの人生という素晴らしいファンドが、数十年後、想像もつかないほど豊かな成果を上げていることを、心から確信しています。

ニューヨークより、愛を込めて。

堀古 英司